長時間透析


日本透析医学会による「わが国の慢性透析療法の現況(2017年12月31日現在)」によると、現在慢性透析患者は33万人を超える数となっています。 国民約378人に1人が透析患者さんであるわけですが、近年、糖尿病性腎症や腎硬化症患者の増加により透析治療は難航しています。

このような背景のなかで、2002年に透析時間の区分が廃止され、透析時間は一般的に4時間透析が主流となりました。

2008年4月、日本透析医学会などの働きかけによって厚生労働省は透析時間区分を再度考慮し、副作用等により透析時間を長くせざるを得ない患者がいることや、透析時間が生命予後に影響を与える可能性があること等から、透析時間等に応じた診療報酬上の評価をおこなうとしました。

透析時間区分の復活により、透析患者さんには透析治療の幅がさらに広がり、透析時間延長による利点を受けられるようになりました。

長時間透析の背景


人工透析治療は、過去には8時間等の長時間治療を行わなければならないのが普通でした。その時代、食事制限や水分・塩分制限は現在よりもっと厳しく、制限することが命を取り留める全てでした。

 

中空糸型ホローファイバー(現在の人工腎臓)の誕生により透析技術や治療効率はますます上昇する一方、透析時間は徐々に少なくなり、遂には4時間透析が主体の透析治療へと変化を遂げました。しかし、4時間透析では血圧が安定せず治療が難航する場合や、食事制限が厳しく良好な栄養状態を保てない、さらには、治療技術の進歩によっても透析アミロイドーシス等の合併症を防げない等の理由により、透析時間は4時間では足りないとした医師らが長時間透析研究会を発足しました。

 

長時間透析研究会によると、週3回では1回6時間以上、週3回以上では週合計18時間以上を長時間透析と定義しています。

長時間透析の治療成績


1992年、シャーラ医師がフランスのタサン診療所で、1回8時間 × 週3回の透析条件で患者の5年生存率が87%、10年生存率が75%と大変良好な予後を示しました。

その当時の日本の治療成績は、5年生存率68%、10年生存率が49.2%でした。最近でも5年生存率72.6%、10年生存率52.1%であることを考えると、当時シャーラ医師らの透析がキュプロファン膜を使用し、酢酸透析液を用いていたことを考慮するといかに治療成績が飛びぬけたものであったかわかります。

 

日本でも近年、長時間透析を実施している施設はいくつかあり、そのなかで平均血圧の低下や降圧剤の減量や中止、栄養状態や心機能の改善、死亡率の減少など多くの成績を発表しています。

長時間透析の治療効果


血圧の正常化


透析時間を一般的な週3回・4時間透析から6~8時間に時間の延長や透析回数を増加させることにより、1透析当たりの時間毎の除水量を減らし、血圧を安定化させる効果が見込まれます。

そのため急激な血圧の上昇や低下を抑え、安定した透析の経過が見込まれます。

食事制限の軽減・栄養状態の改善


時間をかけて十分に毒素の除去や電解質の調整を行うため、血管内のみならず細胞内からも十分に毒素の除去を行います。

そのため以前より食事制限が緩やかになり、栄養状態の改善が期待できます。


内服薬の減量や中止


血圧の安定化による降圧剤の減量や中止、十分な毒素の除去や電解質の調整により、リン降下薬などの内服薬の減量・中止が期待できます。

透析療法長期化にともなう合併症対策


透析期間が長くなるにつれアミロイドが原因物質とされる手根幹症候群等のアミロイドーシスや副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌亢進による二次性副甲状腺機能亢進症等の合併症対策が従来より課題となっています。

透析技術の進歩や新薬の開発によりある程度の予防は可能となってきましたが、一般的な4時間の透析治療では限界があり、合併症発症のイベントを先延ばしにはできても抑え込むまでにはいかないのが現状です。

長時間透析をおこなうことにより、合併症の発症遅延効果が期待されています。


腎性貧血の改善


貧血は心拍出量の代償的増加を起こし、その結果、心仕事量は増加して、長期的には心不全や虚血性心疾患を起こす要因となっています。

透析を長時間おこなうことにより栄養状態の改善が期待できれば、赤血球寿命の延長等により腎性貧血の改善が期待できます。

これは現在包括化の対象となっている赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の減量も期待できます。

 

心機能の改善


長時間透析により心機能が改善した報告がなされており、血圧の正常化や腎性貧血の改善効果などにより心機能の改善が期待できます。


長時間透析の種類


種類

回数

(回/週)

透析時間

(時間/1回)

特徴
長時間透析 3 6~8 透析時間を延長した方法
隔日透析 3~4 4

透析間に2日空きをつくらない方法

透析施設のスケジュール等で困難な面もある

連日透析 7 2~4

連日、透析をおこなう方法

保険上困難

連日長時間透析 7 6~8

連日、長時間透析をおこなう方法

保険上困難

オーバーナイト透析

3

医師・患者

の設定

深夜の睡眠時間を利用した方法
在宅血液透析

医師・患者

の設定

医師・患者

の設定

患者のライフスタイルにより回数・時間を設定可能

長時間透析が行われている施設では、上記の方法一つにこだわらず、患者さまのライフスタイルに合った方法を組み合わせて行っているのが現状です。

こうまつ循環器科内科クリニックでは、このような長時間透析を患者さまにご説明し、積極的に長時間透析を行うことを推奨しています。